#症状の軽減 #治療の継続

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する心理療法

Post-traumatic stress disorder: PTSD

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する心理療法

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、事故や災害などによって命の危険にさらされる体験や、犯罪の被害や虐待などの強い恐怖感を伴う体験(トラウマ体験)をした人に起きる可能性のある障害です。最近では、重度の精神疾患を持つ人が精神症状の経験や治療過程におけるつらい体験によって、PTSDの状態になる可能性が指摘されています。PTSDに対する心理療法は、トラウマ体験を乗り越えることを支援するために行われます。トラウマ体験に焦点をあてた認知行動療法や、脳の情報処理機能を活性化することを目的にした眼球運動、トラウマ体験を追体験することによって、不安症状に慣れることを目的にした曝露療法があります。

コクランレビューについて

世界の研究について知る(コクランレビュー) 重度精神疾患を持つ人々の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する心理的介入

基礎情報

対象者 重度精神疾患とPTSDの両方を持つ人
組み入れ研究数 4件
研究参加人数 合計300人
最終検索日 2016年3月10日
効果の調べ方 1.トラウマ焦点化認知行動療法を行った場合と、行わなかった場合(通常の支援)を比較
2.眼球運動による脱感作と再処理法を行った場合と、行わなかった場合(通常の支援)を比較
3.トラウマ焦点化認知行動療法を行った場合と、眼球運動による脱感作と再処理法を行った場合を比較
4.トラウマ焦点化認知行動療法を行った場合と、心理教育(短期)を行った場合を比較

PTSDに対する心理療法は何に効果があるか?

表の見方はこちら

アウトカム/関心ごと 効果
1. トラウマ焦点化認知行動療法 VS. 通常の支援
有害事象 同程度
PTSD症状の重症度 同程度
生活の質 同程度
精神症状 同程度
不安 同程度
抑うつ症状 同程度
2.眼球運動による脱感作と再処理法 VS. 通常の支援
PTSD症状の重症度 改善
有害事象 同程度
3. トラウマ焦点化認知行動療法 VS. 眼球運動による脱感作と再処理法
PTSD症状の重症度 同程度
4. トラウマ焦点化認知行動療法VS. 心理教育(短期)
PTSD症状の重症度 同程度
生活の質 同程度

この表は、1.トラウマ焦点化認知行動療法と、通常の支援を比べたとき、2.眼球運動による脱感作と再処理法と、通常の支援を比べたとき、3.トラウマ焦点化認知行動療法と、眼球運動による脱感作と再処理法を比べたとき、4.トラウマ焦点化認知行動療法と、心理教育(短期:3セッション)を比べたとき、どの程度効果に違いがあるかを示しています。

トラウマ焦点化認知行動療法と通常の支援の間に違いはありませんでした。 また、眼球運動による脱感作と再処理法では、PTSD症状の重症度に効果がありました。有害事象については、眼球運動による脱感作と再処理法と通常の支援の間に違いはありませんでした。
その他の支援については、効果に違いはありませんでした。

眼球運動による脱感作と再処理法とは、PTSDに対する構造化された心理療法の1つです。トラウマ体験を想起しながら両側性刺激(左右に眼球を動かしたり、両手の甲を交互に軽くたたくなど)を加えることで記憶の情報処理を再活性化させ、フラッシュバックや心理的苦痛などの症状を低減させます。
今回、トラウマ焦点化認知行動療法や、眼球運動による脱感作と再処理法を実施しても、有害事象が通常の支援と比較して変わらなかったため、になっています。

留意点

PTSDに対する心理療法に関する結果は、質が非常に低く、情報が限られています。そのため、効果に関する結論を出すにはさらなる研究が必要です。

[引用]
Sin J, Spain D, Furuta M, Murrells T, Norman I. Psychological interventions for post‐traumatic stress disorder (PTSD) in people with severe mental illness. Cochrane Database of Systematic Reviews 2017, Issue 1. Art. No.: CD011464. DOI: 10.1002/14651858.CD011464.pub2.
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